ヒプノセラピーって、世界ではどこまで研究されているの?
医学・心理学・脳科学で研究が重ねられている「ヒプノセラピー」
「ヒプノセラピーって、医学や心理学や脳科学の観点から研究されているんですか?」
そんな疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
実は、催眠については今も世界各地で研究が続いています。
心理学はもちろん、
痛みの研究、
消化器医学、
医療処置の不安や苦痛、
そして脳科学の分野まで。
しかも、論文があるだけではありません。
英国では、過敏性腸症候群への催眠療法が診療ガイドラインに掲載され、国民保健サービスの病院で実際に提供されています。
スイスでは「医療催眠」が医師の卒後教育制度に組み込まれています。
オーストリアでは「催眠心理療法」が、国で認められている心理療法の一つになっています。
そして2024年には、催眠について過去20年以上に発表された49本のメタ解析を、さらにまとめて検討した大規模な研究レビューも発表されました。
そこには、261件の異なる研究が含まれていました。特に研究の蓄積が多かったのは、医療処置に伴う催眠と、痛みに対する催眠でした。
では、2026年現在、世界では催眠をどのように研究しているのでしょうか。
いくつか見てみましょう。
アメリカでは「催眠」を専門に研究する心理学の部門がある
American Psychological Association(米国心理学会)には、
Society of Psychological Hypnosis, Division 30
(心理催眠学会・第30部門)
という正式な専門部門があります。
ここでは、催眠についての科学的情報の交換、研究や教育の推進、催眠を実践する際の高い基準づくりなどが行われています。
つまり催眠は、現在も心理学の研究・臨床の一分野として扱われているのです。
英国では、催眠療法が診療ガイドラインに載っている
英国の
National Institute for Health and Care Excellence
(英国国立医療技術評価機構)
が作成している過敏性腸症候群の診療ガイドラインには、
hypnotherapy(催眠療法)
という言葉が、実際に登場します。
薬物治療を続けても十分な改善が得られず、症状が長く続いている人について、催眠療法などの心理的介入への紹介を検討することが示されています。
そして、これはガイドラインの文章だけの話ではありません。
英国の病院では、実際に催眠療法が提供されている
英国の
National Health Service(国民保健サービス)
に属するヨーク・アンド・スカボロー教育病院では、
gut-directed hypnotherapy
(腸管指向型催眠療法)
が、過敏性腸症候群などに対する実際の医療サービスとして提供されています。
専門スタッフが評価を行ったうえで、必要に応じて個別に催眠療法を行っています。
つまり現在の世界には、
催眠が研究室だけでなく、実際の病院の中で使われている例がある
ということです。
スイスでは「医療催眠」を医師が正式に学んでいる
スイスの
Schweizerisches Institut für ärztliche Weiter- und Fortbildung
(スイス医師卒後・継続教育機構)
には、
Medizinische Hypnose
(医療催眠)
という正式な追加技能プログラムがあります。
医療催眠についての教育は少なくとも3年間、合計360時間に及び、講義だけでなく、スーパービジョンや患者さんとの実践なども含まれています。
所定の研修を修了した専門医には、「医療催眠」の追加技能証が与えられます。
「催眠」というものを、医師が体系的に学ぶ制度が実際に存在しているわけです。
オーストリアには「催眠心理療法」という正式な心理療法がある
オーストリア政府の公式健康情報を見ると、国で認められている心理療法の一覧の中に、
Hypnosepsychotherapie
(催眠心理療法)
が掲載されています。
これは、催眠を用いた心理療法が、一つの正式な心理療法方式として制度の中に位置づけられている例です。
読み進める前に、一つだけ
このあと紹介する研究の多くは、病院や医療の現場で行われたものです。
痛み、過敏性腸症候群、手術や医療処置に伴う不安など、比較的、研究の条件をそろえたり、変化を数値で測ったりしやすいテーマが多くなっています。
一方、実際にヒプノセラピーを受けに来られる方の中には、
生きづらさを感じている。
自分を否定的に見てしまう。
人間関係で同じパターンを繰り返してしまう。
これからの人生をどう生きたいのかを見つけたい。
そんな、もっと一人ひとり違うテーマを抱えている方もたくさんいらっしゃいます。
こうしたテーマは、病名や痛みの数値のように研究条件をそろえることが難しく、医療分野ほど研究が蓄積していないものもあります。
研究が少ないことと、その体験やテーマに価値がないことは、同じではありません。
今回ご紹介する研究の地図は、ヒプノセラピーという大きな世界のすべてを描いたものではなく、
「現代の科学が、比較的測りやすい形で研究してきた部分の地図」
でもあります。
そのことを心に留めながら、読んでいただければと思います。
どんなことが研究されているの?
催眠については、さまざまな領域で研究されています。
現在、とくに研究の蓄積が多いのは、
- 過敏性腸症候群と腸脳相関
- 急性の痛み、医療処置に伴う痛み
- 手術や医療処置に伴う不安や苦痛
- 小児の医療処置に伴う痛みや不安
- 慢性痛、歯科、睡眠、更年期症状、がん治療に伴う苦痛など
です。
一方で、研究結果がまだ十分に一致していない分野もあります。
たとえば禁煙、うつ病、心的外傷後ストレス障害などについては、「催眠なら有効性が確立している」と一括して言える状況ではありません。
ここが、けっこう大切なところだと思います。
現代の研究は、
「催眠は効くのか、効かないのか」
という大ざっぱな問いだけを立てているわけではありません。
「どんな人に?」
「何に対して?」
「どんな方法を使うと?」
「どの程度役立つのか?」
そこまで詳しく調べるようになっているのです。
催眠は「脳」の研究対象にもなっている
催眠は現在、脳科学や意識研究のテーマでもあります。
機能的磁気共鳴画像法などを使って、
注意、
知覚、
痛み、
自己感覚、
暗示への反応、
などが催眠のときにどのように変化するのかが研究されています。
ただし、
「催眠専用の脳の場所が発見された!」
というような単純な話ではありません。
複数の脳のネットワークや、注意、期待、暗示などがどのように関係しているのか。
その仕組みを少しずつ調べている段階です。
だから、
「催眠とは、そもそも人間の意識の中で何が起きている現象なのだろう?」
という問いそのものが、今も科学研究のテーマなのです。
そして、催眠の研究そのものも進化している
今回調べていて、とても興味深いと思ったことがあります。
催眠の研究者たちは、
「催眠には効果があります」
と主張するだけではなく、
「どうすれば、もっと厳密にその効果を調べられるのか?」
ということまで研究しています。
2024年には、
Best Practice Recommendations for Conducting and Reporting Controlled Trials in Clinical Hypnosis Research
(臨床催眠の比較試験を実施・報告するための最良実践推奨事項)
という研究者向けの文書が発表されました。
催眠の方法を詳しく記録すること。
参加者の催眠への期待を測ること。
催眠への反応しやすさをどのように評価するのか。
同じ研究をほかの研究者が再現できるようにすること。
そうしたことまで検討されています。
これは、
催眠研究そのものが、より精密な科学へと成熟し続けている
ということでもあると思います。
「1958年に米国医師会が催眠を認めた」という話は?
ヒプノセラピーについて調べると、
「1958年に米国医師会が催眠を認めた」
という説明を目にすることがあります。
これは、まったく架空の話ではありません。
1958年に、
American Medical Association
(米国医師会)
の精神保健評議会による
Medical Use of Hypnosis
(催眠の医学的利用)
という報告が、米国医師会の理事会と代議員会によって正式に承認されています。
ただし、これを
「現在も米国医師会がヒプノセラピー全般を有効な治療法として承認している」
という意味で紹介するのは正確ではありません。
米国臨床催眠学会と臨床実験催眠学会は、米国医師会からの連絡を受けて、1958年の方針は1987年の政策整理で撤回され、現在の米国医師会には催眠についての公式な包括的見解はない、と会員に知らせています。
でも、ここで面白いことがあります。
1958年から、もう70年近くたっています。
その間に、
ランダム化比較試験が行われ、
メタ解析が行われ、
診療ガイドラインに採用される領域が生まれ、
病院で実際に提供され、
脳科学でも研究されるようになりました。
ですから現在、催眠について知るために、
70年前の「お墨付き」だけに頼る必要はない
のです。
今の研究そのものを見ることができます。
科学という、一つの窓から催眠を見る
ここで、ひとつ大切にしておきたいことがあります。
私たちは、
医学や科学に認められることによって、初めて催眠に価値が生まれる
とは考えていません。
人の意識には、とても深い世界があります。
催眠を通して体験することの中にも、現在の科学ではまだ十分に測ったり説明したりできないものがあるでしょう。
一方で、
「医学や心理学では、どんな研究が行われているの?」
「世界では、どのように使われているの?」
ということを知ると、安心できる方もいらっしゃいます。
だからこのページでは、
科学を、催眠の価値を決める裁判官としてではなく、
人間の意識という奥深い世界を眺める、一つの窓として
ご紹介しました。
すでに分かっていることがあります。
まだ分からないこともあります。
そして今も、世界中で研究が続いています。
そのこと自体、とても興味深いことだと思うのです。
(西田普)
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参考資料
以下は、このページを作成する際に特に参照した公的機関・医療機関・査読研究です。
英国国立医療技術評価機構「成人の過敏性腸症候群:診断と管理」
ヨーク・アンド・スカボロー教育病院「過敏性腸症候群と腸管指向型催眠療法」
催眠の有効性に関する49本のメタ解析を統合した2024年レビュー
ヒプノセラピーを受けたい方、学びたい方のためのリンク
・ヒプノセラピー基礎講座
・前世療法セラピスト養成講座
・年齢退行療法セラピスト養成講座
・心身緩和セラピー&ソマティックヒーリングセラピスト養成講座
・光出版認定ヒプノセラピストのご紹介
・西田普による個人セッション